【横浜カルバリーチャペル】 天の窓
     
2022年9月18日

「王と王冠」

バルモラル城で亡くなられたエリザベス女王の国葬が、明日、ロンドンのニューウェストミンスター寺院(教会)で行われる。戦後70年間をイギリス、スコットランドをはじめカナダを含む世界15ヵ国を治めた女王は、まさしく戦後の世界、その時代の象徴であられた。長さ8km、最大14時間待ちという後を絶たない弔問者の列を見て、女王がどれほど庶民に近く、また愛されていたかを想ってはまた胸が熱くなる。先週もこの「天の窓」にエリザベス女王の歴史的/劇的アイルランド訪問を書いたが、今日もそのアイルランドの伝説から。

昔、年をとられた子がない王が、次の王は民の中から選ぶと、国中に布告した。そこに記された唯一の条件は、「神を心から愛し、人々を心から愛する者」であった。◆ある村にひとりの青年がいた。村人達に愛されていた彼は、皆に勧められたが、貧しくて旅費も服を買うお金もなかった。それで村人達は、お金を集め、服を作って彼を送り出した。◆初めて見る壮大な城に驚き恐れ、自分は相応しくないと帰ろうとした時、その城門近くに座って物乞いをしている老人が、「寒くて食べる物もないのです。どうか憐みを…」と言った。若者は哀れに思い、自分の大切なコートを与え、帰りの道で食べるはずの食物も与えて帰ろうとした。しかし、その物乞いがしきりに王宮を指さすので、彼と交換したボロのコートを着て門に向かった。当然追い払われると思ったが、驚く事に門が開いた。◆控えの間で長く待たされていると、王が面会すると、部屋へ案内された。伏した頭を上げるよう言われ、王を見上げて大いに驚いた。何と王が、先程自分が物乞いに与えたコートを着ているではないか。そしてよく見ると、その王は城の入口で物乞いをしていた老人ではないか!全く理解できず恐れていると、王が微笑んで言った。「その通り。私があの物乞いである。私は誰が本当に神を愛し人を愛するか知りたかったのだ」。そして王は、若者のコートを返す代わりに、自らの王冠を彼の頭に置き、「次の王はこれである」と宣言した。

神を畏れて愛し、人に仕えて愛する王、再び世界にそのような王が現れるよう祈る。神を愛し人を愛する生涯、これより美しい生涯はどこにもないのである。