【横浜カルバリーチャペル】 天の窓
     
2018年12月16日

「 ある童謡作曲家の召天 」

武井博 名誉牧師 著

 「サッちゃん」や「いぬのおまわりさん」などの名曲で知られる作曲家の大中恩(めぐみ)さんが先日亡くなられました。94歳でした。大中恩さんのお父さんは、有名な「椰子の実」や「卒業式の歌」などの作曲家、大中寅二さんという方でした。恩さんのご家族はクリスチャンで、お父さんは教会の合唱曲などの指導とオルガンの演奏を担当しておられたそうです。
 恩さんは、旧制中学を卒業して、東京音楽学校、現在の東京芸術大学に入学しました。ところが、当時は太平洋戦争の真っ最中で、特にその末期には、学徒出陣といって、大学に通う男子学生までが、兵士として戦場に送られる時代でした。恩さんも海軍に入りました。
 ところが、程なく終戦となって、恩さんは復学し、東京芸大を卒業して、童謡の作曲家として立ちました。そして、同じくクリスチャンで、従兄の坂田寛夫さん(故人)とのコンビで、「サッちゃん」「いぬのおまわりさん」などの、有名な子どもの曲を世に送り出されたのです。従兄の坂田寛夫さんのご家族もクリスチャンで、お母さんは教会のピアノの奏楽者として、用いられていたそうです。坂田さんには、他にも、「おなかのへるうた」、「ねこふんじゃった」など、よく知られた曲があります。また何と、坂田寛夫作詞・大中恩作曲の「幾千万の母たちの」という賛美歌もあるのです!次のような歌詞の賛美歌です。

  ① 幾千万の母たちの     ② 風吹きぬける焼け跡に 
    幾千万の息子らが、      幾千万の母たちは、
    たがいに恐れ、憎みあい、   帰らぬ子らの足音を  
    ただわけもなく殺しあう、   いつも空しく待っていた
    戦いの真昼、         戦いの日暮れ、
    太陽もなまぐさく。      真赤な陽が沈む。(以下略)

 この賛美歌は、戦場に行った青年たちの過酷な現実、戦後、戦場から帰る息子たちを待つ母の心、そんな身近な体験を歌っています。
 それは、厳しい戦争の只中で青春を送った坂田寛夫さんと大中恩さんの心の歌だったのです。大中さんの霊が安らかでありますように!―――そして、世の中が平和でありますように!