【横浜カルバリーチャペル】 ぶどうの木
 
2016年12月4日

「 31字に込められた命 」

東京新聞の連載で突如現れた「セーラー服の歌人・鳥居」。短歌集「キリンの子」(KADOKAWA出版)が異例の売れ行きで手に入らず、ネットで3倍以上の値で取引されている。運よく手に入れて読んだ私も57577の僅か31字に込められた死と命の壮絶な叫びに、魂が切られる深い傷みを感じた。

セーラー服姿の鳥居さんは、どこにでもいる普通の女子高生のようだが、2歳で両親が離婚。小学5年で最愛の母が目の前で自殺。中学で、唯一の親友が目の前で列車に飛込み自殺。母も友も救えなかった罪悪感と無力感から自らも自殺を計る。その後、里親や児童養護施設でのDVや虐待から逃げ路上で暮らした事も。中学で不登校となり、義務教育もきちんと受けていない彼女がいつもセーラー服姿なのは、いじめや貧困で学校に行きたくても行けない子がいる事を伝える為と言う。彼女は捨てられた新聞を拾い、独学で読み書きを学んだ。新聞に掲載されていた岡井隆氏の「今朝のことば」に感銘し図書館で読めない短歌にルビを打ってもらいひとり学んだ。2012年全国短歌大会佳作入賞。翌年見事に「路上文学賞」受賞。歌人の吉川宏志氏は「彼女の体験を反映する内容が淡々と歌われ、それが静かな恐怖感を読者に与える」と評した。余りに壮絶で紹介できない作品も多いが、31字に込められた魂の叫びをお聞き下さい。

 水筒の中身は誰も知らなくて三階女子トイレの水を飲む
 帰る家失くして歩く通学路 絵具セットはカタカタ揺れて
 日曜日パパが絵本を読んでいる子供のとなり我も聴き入る
 いつまでも時間は止まる母の死は巡る私を置き去りにして
 夢の中母さん探す木造のアパートすでに壊されし後
 揃えられ主人の帰り待っている飛び降りた事知らぬ革靴
 君が轢かれた線路にも降る牡丹雪「今夜は積もる」と誰かが話す
 まっすぐに始発列車が引いて行く朝と夜のさかい目を
 生まれたくなかっただけと包み込む左手首の白い傷痕

歌が繊細で美しいほど悲しくて哀しい。私は、これほど壮絶で悲痛な世界がすぐ傍にある事を知らなかった。いや、ないと信じたかった。歌集は「今夜は、月がとても綺麗です」で閉じられている。それは神の恵みであろうか。主の降臨日を前に、神の愛と恵みがこの地に降り積もるように、私達は何としても届けなければならない!